
石田 幸子(いしだ さちこ)
株式会社リクルートキャリア
HRアセスメントソリューション統括部
ソリューション開発部 マネジャー ReCoBook開発責任者
科学的アプローチで早期離職を抑止
人と組織の理想的な関係を築きたい
新卒で入社した若者のうち3割が3年で離職する日本。キャリアアップにつながる前向きな理由よりも後ろ向きなものが多く、若者のキャリア形成において大きな問題とされています。同時に企業にとっては、コストや時間の投資に見合わないだけでなく、競争力の鈍化や事業継続を危うくするリスクとなっています。この状況を解決すべく誕生したのが「ReCoBook(レコブック)」です。希望をもって社会に一歩踏み出した若者が、イキイキと働き続けるための後押しをする仕組みを提供することで、人と組織が共に成長できる未来を標榜します。リリースまでのストーリーと今後の展開を、責任者である石田のインタビューを通じてお届けします。
株式会社リクルートキャリア
HRアセスメントソリューション統括部
ソリューション開発部 マネジャー ReCoBook開発責任者
新卒採用をさまざまなソリューションサービスでお手伝いしている私たちですが、そうした関わりの中で、若年層が早期に離職してしまうという声を耳にしてきました。一人前になる前に自分はこの仕事に向いていないとあきらめてしまったり、職場の人間関係に悩みを抱えて相談できず、辛くなってしまったり、というもったいない理由が多く、クライアントのためにも、若者のためにも、私たちが解決すべきだと感じていました。
早期離職の要因は、「若者自身の我慢が足りないからだ」「受け入れる職場の育成力の問題だ」と論じられる傾向がありますが、私たちはいずれか一方の問題ではないと考えています。確かに、若者の価値観が多様化し従来の方法が通用しなかったり、職場環境が様変わりして新人の育成に十分な時間を割けなかったりという事情もあります。しかし、若者は「早く会社に貢献したい、成長したい」という思いをもっていますし、受け入れ側も、「育てたい・成長させたい」と思っています。ただ、その思いがすれ違うことがあり、それにより問題が発生しているように感じていました。「どうしたら活躍する人材を採用できるのか?」というテーマに対して適性検査SPIのご提供を通じて支援を行ってきた私たちでしたが、「活躍できる可能性をもった人材が早期に停滞・離職してしまう」「これを何とかしたい」というお声が寄せられるにつけ、あらためて、培ってきた知見を活かした解決策を提案したいと考えました。その思いが、若年層の早期離職を抑止するReCoBookの開発につながりました。
若者の早期離職問題の解決策を考えるにあたって私たちが着目したのは、入社1年目の社員に見られる図1のような気持ちの揺れです。入社時は何事にもモチベーション高く臨んでいた状況から、本配属などの環境が変化するタイミングで急に失速する傾向があるのです。自分の仕事を持つ、業務量が増える、配属先に同期がいないといった状況が、悩みや迷いを生むことが理由として浮かぶのですが、見方を変えれば、この時期に備え、ケアできる仕組みを整えることで大きな効果が見込めると考えました。
新入社員として過ごす1年目においては、一人前になるために様々なインプットが求められます。それらを素早く習得し、早く一人前になることが求められますが、順調にいかないことも多く発生します。初めての職場、初めての仕事といった、学生時代から社会人という劇的な環境変化の中で、心と体のバランスが保てず思うようにいかない状況に陥ります。これがいわゆる、“つまずき”です。このつまずきに、周囲が気づけなかったり、本人に自覚がなかったりすることで長期化すると、不調につながったり、離職につながったりするきっかけになります。私たちは、表面的には表れにくいこのような心(内面)のコンディションに着目し、それを可視化することで、周囲が関われる、本人も自分のことを冷静にとらえてコンディションを整えることができるようになることが重要と考えました。
フィジビリティスタディでは、ビジネスモデルや企業規模の異なる20社ほどにサービスコンセプトについてのヒアリングを行ったうえで、プロトタイプ版を開発し、数社に実際にご利用いただきました。最初は「人事や上司が見るものに、本音で答えるだろうか」「導入によって大きな負担がかかるのではないか」というご指摘もいただきましたが、実際にご利用いただくと、こころチェック(心のコンディションを可視化するサーベイ機能)だけでなく、日誌機能に対して「SNS世代には親和性が高いのか、素直な反応が多くて驚いた」、「自分の日誌に対して先輩や周囲からの『いいね!』を楽しみにしているようだ」と評価をいただきました。新入社員からも「忙しそうな先輩にはなかなか声をかけにくいが、ReCoBook上で発信していると空いた時間に見てくれていて安心できました」といった前向きな反応を確認することができました。また、人事の担当者の負担という観点でも、「地方拠点に配属された新人のケアに全国行脚していたが、同様の効果が期待できる」という評価をいただき、背中を押される想いでした。
2014年7月にリリース以来ReCoBookをご利用くださっているクライアントは480社(2017年1月末時点)になりました。中には、年間で30名を採用し、3年で半数しか残らなかった企業様のReCoBookを導入した営業所で、利用中の離職がゼロになったというケースがあります。ご利用くださった人事の担当者からは「新人と会話するきっかけを得られた」「新人が直面している状況に応じた適切な一言がかけられるようになった」「属人的な新人サポートから脱却できた」という声が寄せられています。小さな働きかけで大きな成果をあげている例といえます。
また、人事の担当者の新人フォローで活用いただくケースが多いのですが、配属先の上司や職場メンバーの方々に積極的に利用いただき、育成風土づくりに活用(図2)されているという嬉しいお声をいただくことも出てきました。さらにReCoBookを利用していることを伝えることで、働きやすい職場づくりに真剣な企業姿勢を示す、採用力強化をはかるといったクライアントもいる、こうした現状を嬉しく感じています。
一方で、改めて感じるのは、導入するだけで定着率があがるといった万能なツールではなく、人事の担当者を中心に積極的にご活用いただくことで、はじめて効果をお還しできるものということです。そういう意味では、ご利用いただく方々の手で真価を追求いただく商品といえますし、提供側の私たちも皆様によりよく利用いただくための情報提供や商品サービスの進化を追求したいと考えています。
今後の展開としては、採用段階で適性検査SPIをご利用いただいているケースも多く、ReCoBookを通じて得られる情報とSPIの適性情報を掛け合わせたフォロー策の充実を図っていきたいと考えています。
最近は人事の担当者と一緒に、ReCoBookから得られた情報とSPIのデータを突き合わせながら、一人ひとりの状況について会話することが増えているのですが、実際のデータでご説明すると「ミスマッチの配属」や「らしさが活かされない状況」の回避が実現できる利点をご理解いただき、こうしたデータなら積極的に活用したいという反応をいただいています。一方で、上長からフォローしてもらう際に便利なテンプレートの追加など、ニーズを踏まえた機能にも磨きをかけます。
これから先の日本は、人口減少が大前提で、採用困難な時代がやってきます。せっかく採用した若者を辞めさせない。しっかりと育て、定着し活躍してもらうための体系をつくり、組織に根付かせることができる企業こそが勝ち残れると思います。そのための原理原則は、彼らをひとかたまりで捉えるのではなく、一人ひとり個別に見ながら、心のコンディションにあわせてケアすること。その仕組みさえ整えることができれば、時代や組織の状態に関わらず、採用と育成を効率的につなげた人材戦略が可能だといえます。ReCoBookは、その基盤となる商品。自信をもってご提供します。
※この記事は2017年2月時点のものです